第18回講座「健康と医学 その1」

講師 崎山 樹
開催場所 塚本ビル
開催日時 2012年7月5日 午前

テーマは、「健康と医学」(その1)
遺伝子研究から分かったこと

講師 崎山 樹氏(千葉県がんセンター名誉センター長)
日時 7月5日(木)10:00~12:00 場所 塚本ビル8F
内容 この20年間に飛躍的な進歩をとげた遺伝子(DNA)研究から、遺伝子とはどのようなもので、どのような働きをしているのか、初歩的なことを学ぶ。



遺伝子に関する初歩的なことを学ぶ
第18回講座は、医学博士・崎山樹講師による講義(午前)。その内容がどんな話になるのか事前には判らなかったが、千葉県がんセンター長として活躍された崎山講師による医学に関する話は、シニア自然大学が学びたい話題にも触れられて、大変に興味深い講義となった。
千葉自然学校の飯田洋理事長と50年来の付き合いがあるという崎山講師は、自然がテーマの自然大学の講座にあって自分が話すことについては違和感があったそうだが、健康は大事なテーマと説得されて引き受けたとのことであった。専門の癌の話しは次回送りにし、今回は、遺伝子に関する講義となり、素人にも判るように卑近な例を引きながら噛み砕いた説明が行われた。例えば、DNA情報がたんぱく質に転換される仕組みについての説明では、3牌を自在に並べて楽しむ麻雀ルールを引合いに出して、判り易く解説された。これはその一例に過ぎないが、理解を深めていくためのいろいろなご配慮を頂いた様子があちこちで見受けられ、難しい遺伝子の世界を垣間見ることができた。次回は、「がん」など様々な病気の発症の仕組みについての講義となる。

これまでの講座では、川沼、海など自然・環境との係わりや植物学、動物学の分類を通して、或いは生態学的視点から、生物のことやその多様性について学んできた。本日の講義は、シニア自然学校流に言えば、遺伝子学からみた生物の多様性について、生物の種の保存、生き残りの仕組みに触れる話であった。地球誕生と同時に生物が生まれ、その命を繋ぐ戦略を編み出された、それが遺伝子である。極細の微生物からヒトまで地球上に生きる生物は、遺伝子という共通の仕組みで生き延びてきたという。この話を聞くと、何だか全ての生物が愛おしくなってくる。特に、遺伝子組み換えのテーマなどは、生物と人とのこれからのかかわりのことを考えるとき、これは医学の領域を超え、私たちの生活とも関係する問題となってくると思った。

こうした多様なアプローチにより生物多様性を学ぶことで、私たちは学びの幅を拡げることができるし、最先端の学問の知見から未来の可能性についても学ぶことができる。今までお話を頂いた多くの講師の話を聞くと、それぞれの学問においてここ20年間で飛躍的な進歩があったと語られておられたが、遺伝子の領域ではそれが劇的なスピードで進んでいるようで、こうした最新の知見に接することは誠に嬉しい。今日は、こうした最新の学問研究について、専門家から総括的にしかも判り易く聞かせてもらえたことになり、充実した講座を受講した。神奈川自然大学から視察に来られていた4名も、崎山講師の講義を一緒に聴講されていた。

講義内容の要点
1.DNAはどこにあるか
2.地球・生命の歴史
原始生命の誕生時に、その命を復原する仕組みが(複製)が遺伝子として組み込まれた。地球誕生時を1月とすると3月頃のことである。因みに猿人が現れたのは12月31日の午後10時頃のことで、遺伝子には長い歴史がある。
3.DNA研究の歩み
産業革命の頃の1871年、膿よりDNAが抽出され、第一次世界大戦頃の1900年、メンデルの法則が発表される。1972年、DNA組み換え実権行われ、オイルショックの1977年、DNA塩基配列決定法が発見され、法医学に応用されるようになる。1985年、遺伝子増幅法の発見。2003年、ヒトゲノムの解読に成功。
4.ヒトゲノムの情報量
その情報量は30億の塩基対である。1頁750文字で200頁の本を1日に1冊読み
進めても56年間かかるという量である。この暗号を解く作業を国際共同作業で約10年かけて行った。総費用は数千億ドルかかった。
5.ゲノム量の比較
人は30億の塩基対をもつ。チンパンジーのゲノム量は29億、ニワトリ12億、ハエ1.4億、酵母1.12億、大腸菌0.05億。但し、この膨大な塩基対情報はその全てが使われているのではなく、一部しか活かされていない。
6.DNAの構造
2本の鎖の中にA、T、G、Cとう記号で30億個の情報が書き込まれている。AはTと、GはCとペアーを作るというルールがある。
7.DNA情報の流れ
ゲノムとは全ての遺伝情報のことで、遺伝子とはたんぱく質の設計に関わる部分、DNAとはゲノムを構成する化学構造を指す。従って、DNAは人間の体をつくる設計図で、RNAが設計技師、たんぱく質が現場の大工の役割を果たしている
8.DNA(塩基)の情報のたんぱく質への転換(翻訳)
9.働き者のたんぱく質
アミノ酸がつながってきたものがたんぱく質で、細胞を構成する主成分は約10万種。その働きは、筋肉、内臓の構成成分となり、コラーゲン・レラチン・ホルモン・エネルギー源、生体内の反応を触媒する酵素と多様な働きをする。
10.DNA組替え実験
ヒトも大腸菌もDNAの構造や複製の仕組みは同じである。ハサミとノリの役をする分子(酵素)が発見されたことで、自然界には存在しないDNAも、ほぼ同じ様に複製、転写されることが可能となった。これが組み替え実験である。この実験はDNA研究の光と影を生んだ。再生医療はこの成果の一環である。
11.遺伝子情報の個人差
一卵性双生児を除き、ヒトのDNAは異なっているものだが、1000~2000塩基に1個ある想定されているスニップスや繰り返し配列数の違いなどが遺伝子情報の個人差を生んでいる。この個性を解明することが易罹患性や薬剤感受性の病気に役立つし、個人の同定は法医学への応用につながった。
12.DNA研究が医学にもたらすもの
病気の原因遺伝子の同定とそれを標的にした創薬、感染症や法医学に役立つ遺伝
子診断、遺伝子治療や有効ワクチンの開発、たんぱく質製剤につながる治療法の開
発、オーダーメイド医療、再生医療への新たな展開(ips細胞)など。
13.遺伝子診断の倫理的側面
診断によるメリットがあるか。診断結果の秘密保持の問題。医療経済的な利点はあるか。現代は10万円で全ゲノム解読の時代になった。
14.農業・畜産への応用
 1)遺伝子組み換え植物(抗農薬、抗冷温、抗害虫)
 2)遺伝子診断(産地、組み換えの有無、感染症)
     植物 遺伝子組み換えダイズ
        コメの産地詐称(混入)
     動物 ウシの産地詐称
        キャビア、クジラ等

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