第30,31回講座「里山の基礎論、里沼の保全論」

講師 大野啓一、林 紀男
開催場所 中央博物館
開催日時 2013年9月19日

テーマは、「里山の基礎」と「里沼の保全」

来週は秋分の日を迎える。冬至から数えると一年の四分の三を通過することになる。昼間は30度の日が続くが、朝夕は25度を下回るようになり、ようやく秋の気候になってきた。

先週に続き、中央博物館の講堂と展示室を教室に、里山と里沼のことについて学んだ。雑木林の生態研究を続けてこられた大野啓一氏から雑木林についての講義と展示場と現場で解説を、午後からは、微生物生態学を専門とされる林紀男氏から印旛沼の水環境保全の取り組みについて講義と水生植物再生の実験場で話を聞いた。それぞれ前半の1時間を座学で、残りの1時間を展示室や実験場を巡りながら解説を聞く講座であった。

第30回講座
講座名 里山の基礎論
講師  大野 啓一氏(千葉県立中央博物館 教育普及課長)
日時  9月19日(木)10:00~12:00
場所  千葉県立中央博物館講堂・展示室

大野 啓一講師再現された里山の展示を見ながら、講師の解説を聞く。

植物から見た雑木林

“雑木林という漢字をどう読みますか?” 講義冒頭にいきなり解せぬ質問を投げかけられた。最近、「ぞうきりん」と読む人が増えていることを嘆いてこう問かけられたようだ。確かに、自宅に帰り「ぞうきばやし」をインターネットで検索してみたら、「雑木林」は一発ではこの漢字には転換されなかった。雑木林という言葉の使用頻度が減っているようであり、「ぞうきりん」と読むのも仕方ないことかと思った。徳富蘇峰の随筆「雑木林」の文章をスライドに映し出し、蘇峰が「ぞうきばやし」と読ませていることを確認、その文章を引用しながら本題に入られた。
自らが行った林床管理の実験と管理の研究成果について話を進められた。雑木林の姿、そこに生える草木種と管理との関係、存続が危ぶまれる雑木林について、その生態を語られた。話を聞いて、何気なく見過ごしてきた自然が微妙なバランスで成り立っていることを改めて教わり、放置されてきた雑木林の多くが50年を経過しており、これを復元することはそんなに生易しいものでないことを知った。
 後半は、展示場と博物館の隣にある生態園に足を運び、話を聞いた。生態園の自然はかっての面影が残されており、それが維持管理されている貴重な雑木林である。

武蔵野の雑木林で自らが林床管理の実験を試みてこられた講師の話は、具体的で、科学的である。展示室のコーナーに場所を移し、伝統的な里山の管理について解説を聞く。循環型の社会では雑木林は一定の役割を果たしてきたが…。北総の雑木林には松林が多い。
本物に見える里山風景。これが展示技術か!樹木や草花も作られたもの。遠近もリアルのものに近い。生態園のコナラ。伝統的な管理が行き届いていて、コナラも勢いよく成長していた。生態園で講師の解説を聞く。下草を掻くときもなんでも刈り取るのが下草刈りではないと注意を促される。

第31回講座
講座名 里沼の保全論
講師  林 紀男氏(千葉県立中央博物館 生態学・環境研究科主任上席研究員)
日時  9月12日(木)13:00~15:00
場所  千葉県立中央博物館講堂・展示室

林 紀男講師里沼保全論は、アオコと沈水性の水草とミジンコを中心にした話。

微生物のミジンコが甦らせる沼の水環境

 印旛沼と手賀沼で水環境の改良に取り組む林講師から明るい話題を聞いた。アオコを食べるミジンコを甦らせることで沼の水を浄化させるという取り組みに挑戦しておられる講師は、実証実験の段階で見事な成果を上げておられる。午前中にバランスが崩れた里山の自然を再生させることの難しさを聞いていた直後だけに、なにかホットする思いがした。
前半の講義は、沼の水の質を悪化させる「アオコ」のことについて、次いで、沼に消えた水生植物と水底に埋もれた種の再生のこと、そして、ミジンコの性質などについての興味深い話を分かりやすく聞いた。専門とされる水生の微生物ミジンコについては丁寧な解説があり、水環境の改良にとってミジンコが大切な役割を果すことを教わった。

里山の保全には自然界の生物間の関係が大きな意味をもつことについて、午前の大野講師の話から学んだが、林講師の取り組みもそのことを示唆してくれる試みだ。水環境を悪化させているのは自然のバランスが崩れてしまったためであるとする考え方である。水質が変化し、その結果、沼の水面を覆うアオコが大量に発生し、アオコのために水中に太陽の光が届かなくなり沈水性の水草が枯れ、そこを棲みかとしているミジンコなど微生物も魚に食われて姿を消すことになるという因果関係…。林氏の取り組みは、このミジンコを甦らせるために沼に曾て生えていた水生植物の種を泥の中から取り出し再生させるという実験。その実験場に案内され、再生した水生植物ときれいになった水を目にすることができた。

博物館の裏にある水生植物を再生する実験場。印旛沼の底に眠っていた植物の種をここで再生させ、ミジンコが棲める環境とし、水の浄化を確認する実験。実験場にはドラム管状の大きな器が30数個置かれており、10数種の水生植物が再生したとか。再生した缶の前で解説する林講師。
缶の中には浄化された水と水生植物の間を動くミジンコが見られた。きれいに浄化された水。実験場での成果を活かし、沼での再生に取り組んでおられるが、広い沼は実験場とは違っていろいろなことが起こるとか。再生した水生植物には花を咲かせ珍しい種があった。羊の刻にしか咲かないので「ひつじぐさ」と呼ばれるスイレンの一種で珍種だそうである。

トップに戻る