自然観察の知識と実践(その1)

講師 北澤光子
開催場所 市川市大町自然観察園
開催日時 2013年7月10日

北澤 光子講師市川市自然博物館学芸員、須藤治氏
例年より2週間も早く梅雨明け宣言が出され真夏日がスタートして4日目、雲一つない大空の下、市川市随一の高台に広がる梨畑に囲まれた大町自然観察園に専攻科受講生26名と聴講生4名が参集した。講座のテーマは「自然観察の知識と実践(その1)」。自然豊かな観察園で年間に2度、盛夏と冬期に訪れることによって、自然が季節で如何に変わるかもその狙いのひとつとして企画されたユニークな講座である。
午前10時、室内講義に先立って、学芸員から古来「長田谷津」と呼ばれてきた湧水豊富な斜面林と湿原が昭和46年に大町自然観察園として誕生した由来が紹介された。観察地への興味が湧いてきたところでいよいよ講師登壇、ただ自然を見るのではなく、自然を視る・観ることが観察の「みる」ことであると講義は始まった。自然観察の仕方をタンポポ・アブラゼミ・スズメ・テントウムシについてそれぞれの特徴を如何に多く述べることが出来るか、好き好きが4班に分かれてグループ討議、中には詳しい指摘で講師が驚く場面も散見された。



自然観察の五感を鋭くした一行は正午までの野外活動(前半戦)へと出発、何気なく通り過ぎようとしたフェンスや木道脇に繁茂しているツル性植物のヤブガラシとアアマチャヅルが早速観察指導の対象となり、いくつもの特徴や相違が述べられて、繊細な中にもその多彩ぶりに驚く。



実に多くの草木と昆虫や小動物を育む豊かな湧水が木道を自在にくぐって流れる観察園にはヘイケボタルが生息して、7,8月には鑑賞会が開かれるほど。10年ほど前から、湿地をよみがえらせて適正な野草の繁茂を助長してきた経緯が学芸員から語られて、自然観察に深みが増す。その間にもオニャンマが飛び交い、ふと見るとそのヤゴの殻があちこちの葦にしがみついたまま残っていて、さっそく観察対象になる。
汗をぬぐいながらの野外活動もたちまち1時間、観察園のほぼ中央にある観察植物園に到着、昼食兼休息で一同ほっとする。
午後1時、両側の斜面林が迫る湿地上の木道をさらに北東へ、見事な花を鈴なりに咲かせたエゴノキ、日差しを求めて湿原に大きく枝を張り出したムクノキ、木道にまで伸びているクズと、次々に観察が続く。大きな緑の葉っぱを二つに折って円筒状に巻いたオトシブミ(落し文)が其処此処の枝先にぶら下がっていて、ひとしきり話題を誘う。



観察園の最北端で砂を絶え間なく吹き上げる湧水の源泉を見て、急ぎ向かいの斜面林沿いの木道を折り返して最南端までほぼ1キロ、全員汗びっしょりで博物館へ無事帰還した。炎天下での長行軍を避けて、午前と午後に各1時間ずつの観察行だったが、小さな自然界にも驚くほど繊細で豊かな世界が営まれているのに感動しつつ、各自の観察力を着実に培うことが出来た一日であった。    
次回は2月の再訪、様相がすっかり変わる冬期にどんな自然に出会うのか、今から楽しみである。

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