第50,51回講座「健康と医学、地域再生」

講師 崎山 樹、加藤 文男
開催場所 塚本大千葉ビル8階会議室(千葉市)
開催日時 2013年1月17日

テーマは、「健康と医学」と「地域再生」
塚本大千葉ビル(千葉市)教室にて

第50回講座は、第18回講座(7月5日)で講義された崎山樹講師による続「健康と医学(その2)」講座。今回はがん発症のメカニズムと予防の話を中心に講義された。崎山講師は受講生が理解できるようにと難解な専門用語は使わずに解説される。出来るだけ多くの例を上げて、丁寧な言い回しでかみ砕きながらの講義だ。がん予防12ヶ条などの健康アドバイスは生活習慣の改善を説くもので、肥満、糖尿病、高脂血症、高血圧に悩む高齢者にとって、改めて日常生活への関心と見直しを教えてくれるものであった。

第51回講座は、加藤文男講師による「地域再生」講座で、「枇杷倶楽部が志してきたもの」がサブタイトル。南房総市役所在職中に20年をかけて手がけられた道の駅事業が地域の再生に果たした役割ついて、自らの体験に基づく話を披露された。地域における行政の果たす役割、第三セクターとしての苦労、先を見据えた戦略で全国の先進的モデルとなった道の駅「枇杷倶楽部」事業である。海外からも注目され、定年退職後はベトナムでの道の駅事業のコンサルに忙しい。先見性と洞察力に富んだ経営手法などの話に聞き入った。

崎山 樹講師講義風景

第50回講座 「健康と医学」(2)

講師 崎山 樹氏(千葉県がんセンター名誉センター長)
日時 平成25年1月17日(木)10:00~12:00 
場所 塚本大千葉ビル8F会議室
内容 がん発症メカニズムを中心に、生活に影響を与える生活習慣病についても語られた。

遺伝子研究から分かったこと(その2)
 初歩とはいえ専門的な話についてこれを正確に理解することは難しい。書くことをためらったが、筆者が理解した?範囲でと講義内容の一部をまとめてみた。

1.日本人とがん
 毎年、約60万人が罹患している。又、年間の死亡者数110万人のうち33万人ががんによる死亡者であり、3人に1人ががんで死んでいることになる。言うまでもなく三大成人病の一つであるが、40年前は患者の50%が死んでおり治療には限界があった。今日では早期に発見し、治すことで生存率は高くなっている。5年内に死亡した進行性がんの人は20%に低下いるという。死亡率を他の成人病と比較してみると、がんによる死亡は毎年上昇し、1981年以降は、それまで一番高かった脳卒中と入れ替わりがんによる死亡が第一位となり、現在は心臓病が二番目に多く、次いで脳卒中。千葉県のがん罹患率では、男性は胃がんが最多で、次に肺がん、肝臓がん、結腸(大腸)がんとなるが、傾向として胃がんは減少、肺がんや前立腺がんが増加している。女性は、1994年以降、乳がんが胃がんを上回り第一位になった。

2.がんとは
 がんを定義すると、「自律性を持った無限の増殖をし、周りの組織との話合いを無視する細胞集団である」がんのことを医学部の学生はこのように教わるという。キーワードは、「自律性」、「無限の増殖」、「話合いを無視」。60兆個の細胞からなる人のからだは、細胞が分裂・増殖しすぎないように制御機構が体内で働いており、正常な状態では細胞がそれぞれの役割を果たすことで、ある一定の調和が保たれているという。そのことを献血と肝臓移植の例に説明された。それに対してがんは、細胞の遺伝子に異常がおきて正常な制御が働かなくなり、その結果、「自律的に増殖」するようになったもので、しかも、「無制限に増殖」する。更に、増殖して浸潤し、転移する。これは「話し合いを無視」して他の臓器に到達し、再び増殖するもので、多数の臓器を機能不全に陥れることになる。

3.発がんの要因
同じ人種でも食生活など環境の変化によって発症するがんの発生率や種類が変ってくる。ハワイ移民のがん発生率の変化を調べることで、がんの発生は人種(遺伝子)の違いだけでなく、日常生活や環境が大きく関与していることが分かったという。日本人とアメリカに渡った日本人移民の一世、二世の罹患率を比較する図が提示された。それによると、日本人に多い胃がんを仮にアメリカ人を1とすると、日本人は8.4、一世3.8、二世2.8であり、大腸がんはアメリカ人1に対して日本人0.2、一世0.4、二世0.9で、肝がんはアメリカ人1、日本人1.1、一世2.7、二世2.2となる。この違いはがん発症が食生活や環境に大きく影響を受けるものであることを示している。
 次に、発がんの要因について、1996年、ハーバード大が調査した資料を基に解説された。最大因子はタバコ30%、食事30%、以下、運動不足5%、職業環境5%、ウイルス・細菌5%、女性ホルモンの変化%、アルコール3%、紫外線・放射線2%、遺伝5%、その他10%となっている。タバコによる割合は禁煙の動きで20%にまで減っているとのこと。

4.発がんの三大要因 
 がん発症の原因を科学的、生物的、物理的な要因に分けて解説された。発がん原因の約8割は化学的なものでその種類は数千から数万種に及ぶとされるが、全部はチェックできていないという。体外から入ってくるものと体内でつくられるものがある。体外からのものには代表的なものとしては食物や環境の中にある発がん物質がある。食物では焼け焦げを例に、環境ではタバコや排ガスなどについて説明された。体内でつくられるものには、活性酸素や食品添加物に含まれる亜硝酸ナトリウム・アミンが。活性酸素については、フリーラジカル(気ままな過激分子)が代表格で、酸素の一部(2%)が変化してできる。過剰に入った活性酸素は除去される仕組みがもともとからだの中にはあるが、活性酸素による酸化作用によって、遺伝子が傷つけられてしまうとこの仕組みは壊される。化学発がん物質により遺伝子が変異するメカニズムも教わった。タンパク質や脂質も変質し、その結果、がん化し、老化が促進され、血管障害が引き起こされることになる。食品添加物については、ハムの着色剤などから生成される発がん物質(ニトロサミン)を例に説明された。 生物的要因には、ウイルス感染や細菌がある。代表的なものに血液のがんである成人T細胞白血病を引き起こすウイルスや子宮頸がんに関与するパピローマウイルス16・18型、肝炎ウイルスがあり、細菌には年配者の多くが胃の中に持っているピロリ菌も胃がんを発症させる要因になる。物理的要因には、放射線、紫外線がある。

5.多段階発がん
次に、がん発症のプロセスを4段階に分けて解説された。すなわち、がん発症には、正常粘膜にポリープができ、それが早期がんになり、進行がんに移行するという段階がそれぞれある。このプロセスは単一に進行していくのではなく、各段階で細胞の増殖や分裂を抑えるブレーキ役のがん抑制遺伝子(約50種)が働き、発がん遺伝子がアクセル役を果たすといった複雑なプロセスを経て進行していくという。がん抑制遺伝子については、P53遺伝子の例を引き、がん抑制遺伝子の変異が進行がんに関与していることなどを説明された。細胞の増殖と分裂は、正常な状態では身体が新しい細胞を必要とするときのみ引き起こされるように制御されている。細胞が老化し、欠損して死滅する時に新しい細胞が生じて置き換わるものだが、P53など遺伝子に変異が生じると、もともと持っている機能が不全になり、これががん進行に関与しているといわれている。
更に、発症のプロセスについて日本人に多い胃がんを例に詳しく解説を加えられた。塩の摂りすぎが胃がんの原因の一つに指摘されているが、これは長い時間をかけて塩を摂っている間に膜が傷ついて炎症が起き、多くは炎症で終わるのだが、活性酸素と反応することでがん細胞となり増殖したものであり、この間、がんを見つけてその増殖を抑える免疫監視機構が働き、不都合なものを自殺させるアポトーシスも働くが、がんの勢いが免疫の阻止力を上回ると増殖したがんは自ら生き延びるために血管をつくって組織を形成していくという。このがん組織の形成は短い時間で行われるものではなく、始まりのがん細胞(傷つけられた遺伝子)1個が分裂しながら凡そ1㎝の大きさのがんになるのに10~20年もかかるという。

6.がんの予防―生物的因子・物理的因子の予防、食物のこと
予防の意味を警察や病院を例に説明し、がん発症のリスクを抑えることが大事であり、そのための生活習慣を持つことが予防の観点から重要であると強調された。生物的な因子に対する予防として子宮頸がんのワクチン接種、胃がん対策としてピロリ菌の除菌、更に物理的因子の紫外線対策として遮光についても説明があった。尚、被ばくによる甲状腺がんの発症の仕組みについては未だ解明されていないとのことであった。又、「食物とがん予防」については、現在、患者と健常人を対象とする食生活の比較研究、食物や薬を投与する無作為比較試験、大きな集団で食生活調査を行い、更に調査後10~20年間追跡調査を行うコホート研究が行われているという。その効果を調べるのは難しい研究になるそうで、千葉県はコホート研究を既に始めているという。食物とがん予防についてはいろいろな体験談が流布しているが、専門家からするとこれは当てにならないとのことであった。

第51回講座 「地域再生」
講師 加藤 文男氏(株式会社ちば南房総取締役・元南房総市企画部長)
日時 平成25年1月17日(木)13:00~15:00
場所 塚本大千葉ビル8F会議室
内容 南房総市富浦地区で行われている地域再生の動きとして、地域の活性化を目指す観光事業(道の駅事業)のあり方、立ち上げ、展開や展望について聞いた。

加藤 文男講師講師を紹介する小谷賢彦事務局員

南房総の道の駅事業が教えてくれる地域再生のモデル
 地域の再生。語られることの多いテーマであるが、成果を得るには並大抵でない努力と時間を必要とする。南房総の富浦地区で始まった道の駅枇杷倶楽部事業の取り組みは20年を経て、この地域に根を張り果実を生んでいる。行政マンとして12年間専従された加藤講師の話は、体験談として語られたものではなく、先見性に富む事業を客観的に解説する講義として、これは地域活性化論であり、地域の管理・経営論であった。開発圧力が弱い地域における官と民のあり方を実践する事業として展開されたものである。道の駅に訪れる観光客は年間60数万人、平成19年度で観光バス約3,000台、経済効果6億円、地域への波及効果4億円。全国の道の駅事業の先進モデルにもなっており、今や東南アジアでも注目されている。加藤講師はこの7年間で15-16回もベトナムに指導に出かけておられる。“自分もやりたかった”との声が講座の終わりに受講生の一人からの声がかかった。

 定住人口に悩む地方では、工場誘致に代わる地域再生の手法として観光客誘致を手掛ける自治体が多くある。道の駅は全国に987施設建設されているそうだが、南房総市内にも7施設ある。枇杷倶楽部の事業は単なる建設の話ではない。サブタイトルにある志とは観光、交通結節で地域を支えるという理念のことである。地域のリーダー(市長)の声に関係者が応えた。生きた捨石、地域経済の「パイ」の拡大、閾値(いきち)を超える(赤字は地域活性化に反する)などを懸命に追及し、展開されたものである。

実践の中で得た教訓の話から講義は始まった。“地域は戦略をもつリーダーで変わる”、“都市の手法と鄙の手法、各論から総論へ、一点突破の全面展開”などの教訓について語られた。次に、実務的な話に移り、組織、ユニークな一括受注型システムでの運営、観光客誘致の理論的支柱としてフランスで提唱された「エコミューゼ」という考え方に基づいた広域連携、地域の強みを活かした商品開発(特産の枇杷)、ブランド化戦略、文化事業を展開された話だ。集客の仕組みとしてこの地に「南房総いいとこどり」という独自の情報発信の仕組みが構築され、枇杷倶楽部を中核とする集客ネットワークが形成された。

 今後の展開としては、全体のプロポーションを変えずにそれぞれの機能を高めていく方向だそうだが、観光客数が減り、宿泊者も減っていて、道の駅だけが数を増やしている現在の状況を打開するために、全ての観光客のニーズに対応していくことが必要であり、地域の「里の駅」化を目標にするデザインが中期ビジョンとして描かれているとのこと。道の駅から宿の形成という締めの言葉が印象的であった。

次回は、第52・53回講座(1月24日) 
講座名:「自然体験活動の指導法」 講師 谷慶子氏

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