第42,43回講座「花き入門、土壌・肥料入門」

講師 金子黎次、坂本昌夫
開催場所 塚本ビル
開催日時 2012年11月22日

テーマは、「花き」・「肥料」
塚本大千葉ビル(千葉市)にて座学

本日の講座は、金子黎次講師による「花き入門」と坂本昌夫講師による「土壌肥料入門」。
9月6日に行われた講座の続編となる。10月から11月にかけて、小諸市、君津市(清和県民の森)、佐倉市(印旛沼)、船橋市とフィールド学習のため各地に出かける機会が多かったので、久しぶりの連続座学講座となった。

金子 黎次講師坂本 昌夫講師

午前の金子講師の講義は、鉢を変えて植えたシクラメンのその後の生育についての話から始まった。9月の植え替えから例年にない長い夏が続いた。“植え変えしたシクラメンも長かった夏の暑さの影響を多分に受けたことでしょう”と、異常気象がシクラメンに及ぼした影響のことについて冒頭に説明があった。この小さな花もやはりそうであったのか!我が家のベランダに置いた3鉢のシクラメンは全部花を落としてしまっていた。2鉢がうまく生育していれば十分ですとの説明に、少し救われた思い。後半の話題であるが、花や鑑賞植物に対する消費者の関心が華やかな彩の花から日陰に咲く花や植物に移り変わっているとの話に、花農家の厳しい現実のことを教えてもらった。

午後からの坂本講師の講座は、前回の「土壌・肥料入門」の続編である「肥料」の講義。この講義には元素記号や化学式が当然に出てくる。それを目にすると腰が引けてしまう筆者、そんなことはお見通しの坂本講師。ここがポイントですよと苦手の人向けのアドバイスも忘れない。指摘された箇所には丁寧なメモをとった。そのポイント1は、窒素肥料は畑地の作物では硝酸態(NO3-)で、水田作物はアンモニア態(NH4+)で吸収されるということ。微生物によって尿素態からアンモニア態に、更に硝酸態にと変化する窒素肥料についての理解。ポイント2は、堆肥づくりには、全窒素(N%)に占める全炭素(C%)の割合である炭素比(C/N比)のことについての理解。

第42回講座「花き入門2」
講師 金子 黎次氏(NPO千葉農業支援ネットワーク理事)
日時 平成24年11月22日(木)10:00~12:00
会場 塚本大千葉ビル8F会議室
内容 鉢の植え替えをしたシクラメン生育の話、新しい種のこと、花き栽培における土づくり、新しい需要である日陰でも咲く流行の植物について学んだ。

シクラメンを手に金子講師改良されて色彩が変わった花

シクラメンの栽培、手入れの難しさ
長びいた夏の暑さのために、夏から秋にかけてのシクラメンの栽培はとても難しかったそうである。プロの花農家でさえ暑さ対策に追われたのである。ましてや素人と、いうことになるのだが、休憩時間に受講生から手入れされてりっぱに生育されたシクラメンの写真を見せられ、感心される場面も見られた。農家の場合、こうした事態には遮光や植物ホルモン剤を使って対応するとのこと。シクラメンやバラづくりは菊などよりも難しいようだ。花農家でも1000鉢を育てる時には、発芽率80%なども考慮して2000の種子を蒔くという。市場に出るのは半分ということになり、歩留まり率が低い。水遣り3年と言われる水遣りの難しさなどについても触れられた。

こうして苦労して育てたシクラメンも、需給関係で値段に差が付くのは当然とはいえ、出荷価格の差が時期によってあまりにも大き過ぎる。こうした背景があり、高値で売れる新種づくりが盛んに行われているとか。例えば、空色のシクラメンづくりなどだ。又、室内で楽しむシクラメンがガーデンシクラメンとして楽しまれるようになったのも、こうした背景があって生み出されたものとか。シクラメンの他、バラやトルコ桔梗の新種についてもスライドに映し出して、紹介された。

花を栽培するということは、種を蒔いて開花を待つだけというものではなく、その間の過程を楽しみながら全体として一つのものを作り上げていくことなのですよと、金子講師は強調される。その間にいろいろな苦労、水遣り、土づくりなどがある。シクラメンは一年の半分を鉢の中で育つ。この狭いスペースの中で暮らしていくことになる。栄養分を取る土のことに気を配っていかねばならない。その土づくりには堆肥を使うことになるが、どんな堆肥でも良いというものではなく、牛糞混じりの堆肥が一番相応しいという。理由は、牛糞の肥料割合が1-2%と低いことにあるという。6-8%ある鶏糞では肥料過多となるので不向きという。又、化成肥料だけでは土が固まってしまうので、土壌を柔らかくし根の張りをよくする牛糞の方がよいということになる。説得力のある説明だった。

日陰に強い花や植物が人気に
サービス精神の旺盛な金子講師は、話題が豊富だ。「シクラメンの散歩」の冊子づくり方法については省略するが、最後のトピックスとして語られたのは、新たな需要喚起策として販売されるようになった花や植物のことであった。この頃は、日陰でも咲く花や植物が売れるようになったという。花に代わるものではないが、これらは庭を飾るものとして、例えば、ヒューケラ(日本ではツボサンゴと呼ばれる)やフォスタ(ギボウシ)などの葉を楽しむ植物が流行しているという。又、ススキノのような稲科の植物も使われるようになったとか。オランダで見た花の展示会で確認してこられたそうだ。新しい庭づくりでは、道端にある草花も庭に取り込んだ庭が好まれるようになっているが、イギリス人園芸家ポール・スミザー氏の庭づくりなどがそういった庭とか。

ヒューケラ(ツボサンゴ)フォスタ(ギボウシ)

第43回講座「土壌肥料入門」
講師 坂本 昌夫氏(NPO千葉農業支援ネットワーク事務局長)
日時 平成24年11月22日(木)13:00~15:00
会場 塚本大千葉ビル8F会議室
内容 窒素肥料の吸収形態や堆肥におけるC/N比の重要性などを中心に、肥料とは何か、役割、施肥の際の留意点などを学んだ。

肥料の種類と窒素肥料の吸収形態
植物の栄養に供し、植物の栽培に資するために土壌に科学的変化をもたらすことを目的に、土壌及び植物に施されるものを肥料と呼ぶ。固い表現になったが、この定義はこのように法律(肥料取取法)に書かれている。下記の肥料がある。

①化学肥料
化学的に合成、或いは処理されている肥料。硫酸アンモニア、尿素、過りん酸石灰、塩化加里など。単一成分の単肥と複数の成分をもった化成肥料(農家が主に使用)がある。会場に展示された家庭園芸肥料も化成肥料。速効性のものが多いが、最近は緩効性の化学肥料も出回っている。化学肥料には、窒素肥料(硫酸アンモニウム(硫安)、硝酸アンモニウム(硝安)、尿素、石灰窒素等)、リン酸肥料(過りん酸石灰、熔成りん等)、カリ質肥料(塩化加里、硫酸加里等)の他、石灰質肥料、ケイ酸質肥料、苦土肥料などがある。

②有機質肥料
魚カス、骨粉などの動物質肥料やナタネ油粕、米ぬかなどの植物質肥料の他、レンゲ、緑肥などの自給有機質肥料、食品加工残さ、家畜糞などの有機性廃棄物に由来する肥料がある。

③堆肥
有機質資材を堆積し、微生物によって農作物に障害を与えなくなるまで腐熟させたもの。

尿素・硫安・過燐酸石灰鶏糞・牛糞・骨粉消石灰・苦土肥料・魚かす

坂本講師が特に強調されたのは、窒素質肥料のことである。植物は硝酸とアンモニアの形で窒素を吸収するが、畑地の作物は硝酸態で、水田の作物はアンモニア態で吸収する。このため硝安などの窒素肥料は畑作物の追肥用に適するが、水稲には不利である。最も代表的な化学肥料である硫安は、アンモニア態で吸収される窒素肥料であり、水稲には好適の肥料である。硝酸態の主な肥料には、硝酸カルシウム(硝酸石灰)・硝安(硝酸アンモニウム)があり、アンモニア態の主な肥料には、硫安(硫酸アンモニウム)・塩安(塩化アンモニウム)がある。窒素肥料は又、微生物によって土壌中で尿素態はアンモニウム態に、更にアンモニア態は硝酸態に変化する。従って、魚かす、油かす類は土壌中で微生物によって分解されアンモニアに変化してから植物に吸収される。硝酸態で吸収される窒素肥料は土壌を酸性化させないが、アンモニア態で吸収される窒素肥料は土壌を酸性化させる。この窒素肥料の吸収形態のことを覚えておきたいものだとアドバイスされた。

持参された肥料を展示硫酸カリ・溶成カリ

堆肥化における炭素比(C/N比)の意味
有機態肥料を堆肥化する場合、炭素率(C/N比)によってその進行速度が左右される。有機態は微生物によって分解されていくが、一般的には糖から、繊維(セルロース)、木質・おが屑(リグニン)の順に分解(無機化)が進む。全窒素(N%)に対する全炭素(C%)の割合で表す炭素率(C/N比)でそれを説明すると、炭素率の小さいものから堆肥化が進行し、炭素率が大きい木質は時間がかかるということになる。稲わら堆肥は炭素率が15、堆肥全体では20±7、堆肥化する場合の目標値は炭素率15~20とされる。この炭素率が堆肥づくりのポイントとなる。例えば、炭素率が50~120の落葉(広葉樹)などはなかなか腐らないので米ぬかを撒いた方が堆肥化は早く進行する。おが屑などの木質は炭素率が300以上であり、農家は堆肥化させるのに2年程寝かせているとか。

化学肥料、有機態肥料の長所・短所
悪ものにされがちな化学肥料であるが、長所も多い。

化学肥料の長所
  1.施用量を調整しやすい
  2.安定的に供給できる
  3.施肥労力が軽減しやすい
  4.土壌条件に合わせた肥料を選択できる
  5.肥効時期をコントロールできる
  6.不足養分を供給しやすい等

化学肥料の短所
  1.土壌の酸性化をもたらす
  2.吸湿性がある
  3.土壌団粒化がすすまない
  4.過剰に施用してしまうがことある
  5.過剰障害を起こす
  6.多量要素だけが施用される場合が多く微量要素が不足する

有機態肥料の長所
  1.緩効性による施効を持続させる
  2.濃度障害を回避する
  3.微量要素の供給などの施肥効果がある
  4.土壌微生物を富化、多様化させる
  5.土壌の団粒化に伴う通気性、保水性、透水性を改善する
  6.腐食による緩衝能(PHの急激な変化を抑制)を向上させる
  7.陽イオンを保持する

有機態肥料の短所
  1.速攻性がない
  2.効果発現時期が明確でない
  3.多量に施用が必要
  4.有害物資の混入防止に注意が必要


次回の講座(第44・45回講座)
講座名:地形・地質学入門
講師 :岡崎 浩子氏(千葉県立中央博物館地学研究科長)
日時 :平成24年12月6日 10:00~15:00
会場 :千葉県立中央博物館講堂

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