第34.35回講座「山の自然入門(その2)」

講師 尾崎煙雄・原正利
開催場所 清和県民の森
開催日時 2012年10月18日

テーマは、「山の自然入門(その2)」
清和県民の森にてフィールド学習

 前回(第33回講座)に引き続き、「山の自然入門」講座が清和県民の森をフィールドにて行われた。講師は尾崎煙雄氏(千葉県立中央博物館 生態学研究科房総の山フィールド・ミュージアム上席研究員)。午前10時に清和県民の森に集合し、午前中は、房総丘陵の森を作っている樹木を観察し、午後からは、小糸川沿いの河口段丘に生育している植物を観察した。午後から雨が降り始めたが、観察を続けるには支障はなく予定通りに終わることができた。待ち構えたよう降り始めた強い雨の中を帰途に就いた。

尾崎 煙雄講師清和県民の森

第34・35回講座「山の自然入門(その2)」

講師 尾崎 煙雄氏(千葉県立中央博物館 生態学研究科房総の山フィールド・ミュージアム上席研究員)
日時 10月18日(木)10:00~15:00 
場所 千葉県清和県民の森
内容 県民の森や小糸川上流の河岸段丘で、房総丘陵の森を作る樹木や植物を観察した。

本日の「山の自然入門(その2)」講座は、房総丘陵にある清和県民の森(君津市)での
フィールド学習。講師の尾崎煙雄氏は、房総の山のフィールド・ミュージアムの担当で、週の半分は現地で動植物の調査活動を続けておられる森林生態が専門の研究者である。前回(10月11日講座)の原正利講師による「山の自然入門(その1)」講座内容を、現場で確認する学習ともなり一層楽しい講座となった。
 県民の森「木のふるさと館」が集合場所。君津駅に集合した22名のJR組は、バスに乗り換えて、駅から50分の距離にある森に向かった。午前の講座は、森に生えている樹木の葉を通して山を観察するプログラム。この一帯には100種位の木が生育していることで、その内の代表的な樹木16種の葉を採取してきて、山を下ってからそれを講評するというプログラムであった。
山に入る前に、基礎的な知識として山での観察の注意点ついて指導を受けた。山道を登りながら、針葉樹、常緑広葉樹、落葉広葉樹の中から選ばれた16種の樹木の下で立ち止まり、簡単な説明を受けそれぞれの葉を採取。樹木の葉には良く似たものが多く、例えば、針葉樹のモミとカヤ、常緑広葉樹のスダジイとアカガシやアラカシなど、一見しただけでは見分けがつかない。わいわいとうんちくを傾けながら葉の採取を続けた。

 午後は、小雨が降り始め、小糸川の河床には降りることができなくなったが、川が作り出した平な河岸段丘でそこに生育する植物や樹木を観察した。中でも興味深かった植物は、中央博物館で紹介された“房総半島に閉じ込められた生物”であるカンアオイ。ここで本物を観察することができ、群落を作り小さな花を咲かせている様子を写真に収めることができた。



房総丘陵地にある清和県民の森
房総丘陵地は、なだらかな起伏の山並みが続くという地形ではなく、結構勾配がきつい山道と深い谷と尾根道の山が連続し折り重なる地形である。原講師の解説にあったように、これが房総の山の特徴である。又、午後から見た山間を屈曲して流れる小糸川は、山を削り取り出来た50メートル程の垂直の崖が続く川だが、これも房総丘陵地の特徴である。房総丘陵を流れる川の流域には、浸食作用によって作られたV字谷が多い。

小糸川上流の水源林地帯にある森は、“コナラ、スダジイ、カシ類等の広葉樹とモミ、ツガ等の針葉樹が混生する自然豊かな森林地帯”であり、“尾根から斜面にかけて、10m以上のシイ・カシなどの常緑広葉樹林、コナラなどの落葉樹林、 スギ、ヒノキの人工林が見られ、尾根付近ではヒメコマツ・ヒカゲツツジが自生し、谷では タマアジサイ・アオキなどの低木林、フサザクラ・ケヤキ・アカメガシワの落葉樹林が見られる。”“春には君津市の花でもあるミツバツツジやヒカゲツツジ、ヤマザクラやソメイヨシノなどが咲き誇り、秋は千葉県で一番遅いと言われる紅葉が11月下旬から山々を染め始める”と、清和県民の森のホームページに紹介されていた。今日は紅葉を見るには未だ早かった。

採取してきた樹木の葉この葉は何という樹木だったか?

山の基礎知識 ― 山の自然観察の注意点
 山での観察に際して大切なことは、一つは、自然のおもしろさを見つけ、人に伝えること、もう1つは、自然の中に潜む危険を察知し、事故を回避することである。知ることの楽しさと怖さ、これを同時に理解してから観察を始めることが大切だとの尾崎講師の指摘。「山での危険な生物は何ですか?」と先ず問われた。マムシ、イノシシ、サル、ハチ、シカ、クマ…などと答えが返ってきたが、その一つ一つについて丁寧に解説された。

山で一番危険性が高いのはスズメバチとのこと。20名位の人が刺されて死んでいるという。スズメバチ被害の90%は巣に接近したときに起こっている事故で、一匹でいるスズメバチは襲ってくることはない。アシナガバチ、ミツバチも同様に注意が必要。マムシやヤマカガシなどの毒蛇に咬まれるのも怖いが、咬まれても死ぬ程のことには至らないそうである。房総丘陵には7種の蛇がいるが、毒蛇はこの2種だけ。
気になる生物の一番は、ヤマビルである。ミミズに近いこの生物は20年前まではこの一帯にはいなかったのが、哺乳類の血を吸って暮らしているので、鹿に運ばれてきたものだ。めったに見かけるものではないが、厄介なのは、傷口にかさぶたができないのでほっといても止血せず、数時間から長い場合は一日中血が止まらないことがある。しかし、ヒルに吸い付かれても毒はなく、病原体ももっていないので罹病することはないそうである。
意外だったのはカエル。丘陵には12種のカエルが生息しているが、この内、アマガエル、ヒキガエル、ツチガエルの3種は有害なカエル。皮膚から刺激性の分泌物を出す。幼児はカエルを手づかみにてその手で眼をこすってしまうことがあるので特に注意が必要。カエルの毒は水溶性なので、手を洗うことで事故を防ぐことができる。
イノシシは半島から絶滅したと思われていたが、1980年代に爆発的に増えている。山で出会っても危険はないという。臆病な動物なので騒がなければ逃げてしまう。夜間、車で衝突するのがむしろ怖いという。植物では、ウルシ、キノコが要注意。特に、紅葉する蔓ウルシに触るとかぶれる。

山で観察した樹木の葉
 観察した代表的な16種の樹木は以下のもの。
<針葉樹>
  ・モミ
  ・ツガ
  ・カヤ
  ・アカマツ
  ・スギ
  ・ヒノキ
<常緑広葉樹>
 ・スダジイ
 ・アカガシ
 ・ウラジオガシ
 ・アラカシ
 ・ヒサカキ
 ・ヤブツバキ
 <落葉広葉樹>
 ・コナラ
 ・フサザクラ
 ・タマアジサイ
 ・クロモジ

質問に答える原講師表面の土が薄く強風で倒れた木

小糸川河岸段丘の植物
木やツル・シダが生育する平坦な段丘の林で、珍しいカンアオイや花が見頃のホトトギスやコウヤボウキなどを観察した。クサアジサイ、ノブドウ、ヤマアジサイ、イズセンリョウ、ミツバアケビなども生育しているとホームページに紹介されていた。

カンアオイの花が咲いていた小糸川の河岸段丘にある林


次回は、第36・37回講座 10月25日(木) 10:00~15:00
第36回講座 講座名:里山の保全論 講師:大野 啓一氏(千葉県立中央博物館環境研究部環境科研究科長)
         会場:千葉県立中央博物館
第37回講座 講座名:里海・里沼の保全論 講師:林 紀男氏(千葉県立中央博物館生態環境研究部生態学研究科上席研究員)

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