第33回講座「山の自然入門」

講師 原正利
開催場所 中央博
開催日時 2012年10月11日 午後

第33回講座「山の自然入門」(1)

 「山の自然入門」講座は、今回と次回(10月18日・清和県民の森でフィールド学習)と連続で行われる。本日の講師は、ブナ林や照葉樹林の生態に関する研究家、原 正利氏。
前半の座学では、全国の山の主な特徴や千葉県の山の特徴について触れられ、後半は、常設展示室の展示を見ながら房総の森林やそこに生活する動植物について解説された。



山はどのようにして高くなったのか?
 山はどのように高くなったのか? その可能性は4つ考えられるという。
1つは、長い時間をかけての地殻変動で隆起。
2つは、火山活動による土地の隆起や火山噴出物の堆積で盛り上がった。
東北の磐梯山、安達太良山、那須岳など。
3つは、山の地質による。水の動きや侵食の速度を介して地形が形成された。
燕岳など。西日本に多い花崗岩の山は地質変化による。
4つは、地形輪廻。幼児期、壮年期、老年期と、山の地形は変化する。
老年期の山では、準平原地形が残る東北の阿武隈山地や北上山地、壮年期の山
の代表が谷川岳や北アルプス。
又、気候変動によって生まれた山もあり、木曾駒ヶ岳・千畳敷カールなどは氷河の周氷河作用によってできた。

房総の山の特徴
 千葉県は日本の中でも最も標高の低い県で、房総半島南部の海抜408mの愛宕山が最高峰である。この南部地域は起伏に富んだ山地のように見えるが、房総丘陵地と呼ばれる丘陵地に分類されている。従って、千葉県は山地がない県ということになる。しかし、この丘陵は標高が低い割には斜面が急峻で、大きく蛇行した河川が深く谷を刻み込んでいる。
地殻変動が激しい日本列島の中にあって千葉県は全国で一番隆起速度が大きい県だそうで、この急峻な地形は、極めて大きい地面の隆起により形成されたものであり、南房総地域に見られる顕著な特徴となっている。雨が多く、地質的に若くて未だ固まりきっていない柔らかい堆積岩が多い地質のために、侵食が激しく進んで深い谷が刻まれ、このような特有の地形が見られる地域となった。

常設展示室で解説
 海抜が低い房総丘陵の森には、常緑広葉樹林(照葉樹)のスダジイやアカガシ、ウラジロガシなどのカシ類やタブノキ、ヤブニッケイなどが全域に広がって繁茂している。この森に、太古からの生物が今日でも生息していることが確認されているという。下の写真にある“房総半島に閉じ込められた生物”である。
写真の説明に見られるように、70~80万年の昔、房総丘陵と三浦半島は陸続きであり、6000年前に東京湾が形成され、房総と三浦半島が分離されるという地形の変化が起った。房総丘陵にそのまま閉じ込められてしまった植物の模型が博物館に展示されていた。カンアオイと呼ばれる房総丘陵に繁茂していた植物(上の写真)である。トウキョウサンショウウオも当時棲息していた。丘陵の尾根にモミやツガと共にヒメコマツという樹木が見られるが、最終氷河期の1万8千年前の樹木であると書いてあった。スダジイやカジカカエルは、縄文海進時代6000年前からの動植物であるという。

70-80万年前の房総と三浦半島カンアオイの模型

 今日の房総丘陵の自然について。ニホンシカやニホンイノシシが房総丘陵の森に生育している。これらの動物がこのように増えたのは最近20~30年ほどの出来事だそうで、シカは少数が分布するだけで、イノシシは一時絶滅していたと考えられる。増えすぎたこれらの野生動物による農林業への被害が問題となっているが、山の植物相も大きく変化している。餌となる植物は姿を消し、餌とならない植物ばかりが目立つようになっているという。
これが丘陵の今日的な問題となっている。



次回は、第34・35回講座 10月18日(木) 10:00~15:00
講座名:山の自然入門(2) 講師:尾崎 煙雄氏(千葉県立中央博物館生態学研究科房総の山のフィールド・ミュージアム上席研究員)会場:清和県民の森

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