第32回講座「川・沼の自然入門」

講師 倉西良一
開催場所 中央博
開催日時 2012年10月11日 午前

テーマは、「川・沼の自然入門」と「山の自然入門」
中央博物館講堂にて

 本日の講義から後期に入る。今日の講義は、私たちの近くにあって見慣れていて、楽しませてもらっている川や山という自然がテーマ。中央博物館の倉西良一講師と原正利講師が、それぞれ川・沼の自然と山の自然を担当された。余りに存在感が大きい山や川については、「山とは何なのか、どうしてできたか?」とか「川や沼の生態は?」などと、普段は余り深く突っ込んで考えることはないので、この機会に山や川のことを改めて振り返ってみることができた。

倉西 良一講師原 正利講師

第32回講座「川・沼の自然入門」

講師 倉西 良一氏(千葉県立中央博物館環境教育上席研究員)
日時 10月11日(木)10:00~12:00 
場所 千葉中央博物館講堂
内容 房総の川や沼に棲息する動物について、川・沼を観察する際の着眼点などを中心に解説された。

本日の「川沼の自然入門」講座は、6月14日の第13回講座(大木淳一講師による養老渓谷でのフィールド学習)に続くもので、本日は中央博物館での座学学習。講師の倉西良一氏は開設準備から中央博に勤務し、ここで川・沼の研究に打ち込んでこられた水生昆虫学、河川生態学のスペシャリストである。氏の自己紹介であるが、ご自身の容姿は北海道の熊に例えられるとユーモラスなスライドを見せながら講義を始められた。前半の話は、房総丘陵に源を発し富津市の東京湾に流れ出る小糸川とそこに棲む水生昆虫のことが中心で、後半は、印旛沼と手賀沼について及び希少昆虫のことを話題にされた。



小糸川の小さな空間に棲む水生昆虫たち
房総丘陵を流れる川の流域には、浸食作用によって作られたV字谷が多く、又、岩盤(平滑岩盤河床)が河床になっている川が多い。これが特徴となっている。全国的にみても特殊な河川形状とされている。

房総の水生昆虫は、こうした川の環境に巧みに入りこんで川の中の石の下や、岩盤の上、落葉の堆積の中、小さなしたたりの中など水の流れがつくりだす小さな空間を棲息環境として暮らしている。平な岩盤河床にある段差や崖から落ちる小さなしたたりも棲家になっている。地質の研究者はこんな段差や小さなしたたりなど何の意味もないと言われるそうだが、“ぽたり、ぽたり”、“ぽた、ぽた”、“ちょろ、ちょろ”と滴りにもいろいろとあり、それぞれの状況に応じて違った生物が棲息している。このちょっとした環境に生息する小さな昆虫たちを研究している倉西氏に言わせると、とんでもないことを言っているということになる。こうした研究者通しのやり取りも披露されて、笑いを誘った。

 川や沼に棲息する昆虫から分かることがあるという。人の感覚では判らぬことを水生昆虫が教えてくれるそうだ。その水生昆虫について、カゲロウ、カワゲラ、トビゲラを中心に時間を割いて解説された。例えば、カゲロウについての話では、儚いものの例えとされ、春の水が温み始めた頃に一斉に出てくるカゲロウは、何故儚い命なのだろうか? 直ぐに死んでしまうことは知っていたがその原因を突き詰めて考えたこともなかった。そういえば、カゲロウは羽化時期を同調させて一斉に出てくるが、その胴体は透明であると指摘されてその姿を思い出した。消化器がないから透明に見えるのであって、従って、その成虫の期間が短いのは当然ということになる。

河川・沼の生態系と希少昆虫
河川の生態系についての解説であるが、上流では落葉を分解する昆虫、陽が当る中流域では藻類が育つのでそれを食べる昆虫、下流域では上流から流れて川の底にたまった有機物を食べる昆虫が、それぞれの生態系を形成している。この生態系を維持していくためには、川に流れ込む有機物が必要となってくる。だから、上流から下流にまでの川全体に棲む生物の群集行動を知ることで、その川の健全性が測れるという。

沼の生態系についてである。その頂点に立つものはオオタカであるが、このピラミッドの最底辺にはイトミミズなど低生生物が棲息している。倉西氏が印旛沼を調査されたところ意外な事実が判明したという。少量のイトミミズしか採取することができなかったという。これまで印旛沼の汚れは過栄養が原因であるとされてきたが、イトミミズの存在が十分に確認されなかったということで、別の原因も考えられるのではないかと、倉西氏はこれまでの定説を疑うようになったという。氏の仮説では、沼を浄化する分解者を捕食するコイ科の魚類に原因があるのではとのことであった。こんな最前線の研究成果も参考になった。最後に、レッドブックで絶滅危惧種に記載されているシャープゲンゴロウを例に、希少昆虫について触れられた。2時間の講義内容は詰まっていた。多少の知識があれば噛み砕きながら聞くことができるが、そうでないとメモを取るだけで精一杯となる。

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