第30・31回講座「果樹入門」

講師 長江英子
開催場所 千葉中央観光農園
開催日時 2012年9月27日

テーマは、「果樹入門」
果樹園教室にて座学とフィールド学習

 千葉中央観光農園の一角を教室に、長江英子講師による「果樹入門」講義を聴講した。午前は座学、午後からはナシの食味体験と隣接する果樹園で梨など果樹の観察を行った。今日の講座で全62講座の半分が終了し、次回からは後期に入る。

 たわわに実る甲州三尺の葡萄棚の下に設けられた教室は、吹き渡る爽やかな風が心地よい。台風の影響もあってか強い風に土が舞うこともあったが、教室には解放感が溢れ、果樹の話を聴くにはもってこいの環境。長江講師による講義は、吉野弘さんという詩人のことばの紹介から始まった。吉野さんによると、果物・果実という呼び方は、“毛のもの”が“けだもの”に転化したように、“くだもの”は“木(く)のもの”が転化した古い大和言葉であるという。

果物、果実という漢字には、「果」が当てられている。いずれも草木の花の生殖活動が行き着いた「果て」を意味する造語で、果実も果物も生殖活動の終りのものを意味しているが、一方で、その中に種子を含んでいるということで次世代への出発でもあり、矛盾を孕んだ言葉である。この含意を詩人は面白がっている。と、こんな導入の話から始まった。更に、引用果樹の器官の呼び方は人の器官に例えられていると続けられ、すなわち、芽は目であり、花は鼻、葉は歯、実は身、根は骨というように例示された。私たちは果樹と人との長い付き合いについて気付かされることになり、講義はここから本論に入っていった。

長江 英子講師教室風景

第30・31回講座「果樹入門」

講師 長江 英子氏(NPOちば農業支援ネットワーク調査役)
日時 9月27日(木)10:00~15:00 
場所 千葉中央観光農園
内容 第30回講座で永年作物である果樹の特性についての基礎的知識を学び、第31回講座では千葉県が全国一位の生産を誇る梨の品種の違いを目と味わいで確かめ、果樹への理解を深めた。

熱心に聴き入る農園の風景

講義の概要は、
1. 果樹の特徴
2. 結果習性と果実の生産
3. 果実肥大のしくみ
4. 整枝・せん定

 果樹づくりの経験を何人位がもっているのか? 冒頭に質問があり、6-7人が挙手、約20%弱の受講生が庭や畑で、或いはベランダで何らかの果樹を栽培している様子が判ったが、筆者は無経験者の方である。基礎的知識についての解説が整枝、せん定など技術の話から始まったら、全く経験のない者にはお手上げになっていたと思うが、果樹とは何か? 樹木や野菜などと異なる特徴とは? 丁寧に時間をかけてこうした初歩的なことから説明があり、しかも専門用語は余り使用せずに語ってもらったので、なんとか理解が出来、親しみも湧いてきて、後半の技術的な話にもついていくことができた。
 
 果樹は、永年作物として、何年間にもわたって植換えの必要がない農作物であり、同一の場所で長年栽培する作物である。4つの生育ステージがあり、すなわち、幼木、若木、成木、老木の成長期があるとされる。例えば、ナシの幸水の場合、15年~20年位の果樹が成木期に当たり、この期は収穫の安定した期間であり、それ以降は老木となる。味の方は老木期の方が美味しいとのことであった。若さを青いと比ゆすることがあるが、若木の時の味はいまいちという。

果樹栽培においては、果樹は天候などに左右されながら幹や枝を育て、3-4年で果実を成すことになるが、種子から苗木を育てることはまずないそうで、普通は接木で苗木を育てることになるので、1年目から実をつけさせることも可能だという。しかし、これでは枝や幹にかかる負担が大きくなり過ぎるのでこんなやり方はしないという。

果樹の実が成るようになると、毎年、花・展葉期、枝葉拡大期、果実肥大成熟期、栄養蓄積期、休眠期というサイクルで生育し、果樹はこれを繰り返しながら歳月を重ねていく。 “私たち観光農園は梨の実を育てるために一年の10ヶ月間作業に費やし、収穫を楽しんでもらうのは2ヶ月の間だけです。”千葉中央観光農園の女性経営者である市原裕子さんは語られたが、これを生育サイクル流に言えば、果実肥大成熟期に当る7月~9月半ばまでの2ヶ月強が収穫期となり、その後は、翌年のための栄養の蓄積期に入るということになる。

 この一年間の生育サイクルには特徴があって、果樹は、春に枝葉や根のような栄養成長器官を成長させ、その後、花芽や花器、果実のような生殖器官が成長するという2段階の成長(栄養成長と生殖成長)期を経て、初夏から夏にかけて果実を実らせるという仕組みをもっているという。もう少し丁寧に説明すると、春4月頃、前年から蓄積した養分を吸い上げて花や葉を開かせ、7月頃、栄養成長の転換期を迎え、新梢の成長を停止させ、生殖の成長期に入る。この時期から果実を太らせていき、成熟転換期に入る8月中旬から収穫が終る9月半ばまでの間、実った果実をもぎ取る梨狩りシーズンを迎えることになる。9月中旬頃、もぎ取りが終った後に果樹は翌年のための栄養の蓄積期に入る。そして、落葉とともに2月の終り頃まで休眠期に入っていく。これを木の中で同時に行いながら、一年、或いは一生を過ごしているという。

寛いだ昼食時間のスナップ

 午後からは、冒頭に千葉中央観光農園の市原裕子氏から挨拶があった。自己紹介によると、昭和30年代に当時の千葉市長からの観光農園に力を入れたいとの要請を受けて、ブドウ、ナシ、くりなどの観光果樹農園として経営を開始したとのことで、現在は、いちじく、さつまいもなども加え、出来るだけ長い期間に収穫体験が出来、完熟したおいしさを味わってもらえる農園を目指して取り組んでおられるという。

千葉県はナシの生産県であり、栽培面積、収穫量、生産額ともに全国第一位である。おなじみの「幸水」は既に収穫が終っており、この時期のナシから5種類(なつひかり・豊水・あきづき・新星・新高)の梨が用意されていて、その味比べを楽しんだ。甘さ、酸味、食感(舌触りなど)、香り、総合評価(うまさ加減)などを基準に、食べ比べし評価表に書き込んだ。豊水、新高の味は覚えていたが、新種のあきづき、新星、なつひかりの味は初めて食べたもので、前者のナシとは微妙に異なる味で皆さんの評判は良かった。中でも、「あきづき」は注目のナシだそうで2001年に登録された新種のナシとのことで、母が「新高」と「豊水」の掛け合わせたものに、父の「幸水」を交配させて誕生したものである。肉質が軟らかく、汁が多く、糖度12.3度と品質極上のナシで一番印象に残ったナシであった。
終了後、隣の農園で梨やブルーベリーなど果樹の観察を行った。

どんな味がするのかな?試食した瑞々しいナシ果樹観察

次回は、後期合宿研修 10月2日(火)~3日(水) 1泊2日
長野県小諸で星座観察と浅間山麓での自然体験活動・山麓トレッキング

第32回講座 10月11日(木) 10:00~12:00 講座名:川・沼の自然入門 講師 倉西良一氏(千葉県立中央博物館環境教育上席研究員)
第33回講座 10月11日(木) 13:00~15:00 講座名:山の自然入門 講師 原正利氏(千葉県立中央博物館生態・環境研究部長)会場 千葉県立中央博物館

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