第22・23回講座「稲作入門」

講師 齋藤幸一
開催場所 谷当工房
開催日時 2012年7月19日

テーマは、「稲作入門」
千葉市郊外(若葉区)谷当町で座学と谷津田の視察

講師 齋藤幸一氏(NPO法人 ちば農業支援ネットワーク調査役)
日時 7月12日(木)10:00~15:00 
場所 千葉市若葉区谷当町 谷当工房
内容 午前中は、世界や日本における米の生産と消費、水稲と水田の特性、千葉県の稲作、新たな水田稲作などの紹介があり、稲作や水稲についての理解を深め、午後からはライスセンターや谷津田の水田を視察し、米農家の作業について話を聞いた。

齋藤幸一講師稲の生育状況を調べる齋藤講師

 第22回・23回講座は、齋藤幸一講師による講義。前回に引き続き本日の教室も金親氏の自宅ガレージにて。午前中は、稲作全般についての講義、後半はコシヒカリを基準に千葉産の米との食味の比較体験を行い、午後からは、谷当町のライスセンターや周辺の谷津にある水田の管理状態などを視察し、説明を受けた。
 この日は、関東地方の北部で連日37度を超す日が続き、東京都心も35度を超す初の猛暑日となり、千葉でも30度を超す厳しい日差しが照りつけた。ガレージ教室は金親氏のご好意で時々外に打ち水するなど暑さ対策を講じ、心配していた午後からの屋外視察も、谷津田を取り囲む雑木林の緑陰と通り抜ける風のお陰で、無事に終えることができた。

  10:00~11:30 講義      11:30~12:00 食味試験の体験
  13:00~15:00 里山(谷津田)の水田や水稲の視察

第22回講座 主食の米と稲作づくり
 稲作と聞くと、弥生期に日本に到来した食物、年貢米、休耕田、米価、TPPなどなど、さまざまなことを人は頭に思い浮かべる。齋藤講師による稲作入門の講義は、稲作を巡るこうした話題を網羅した講義となった。アジアの人びとの主食、米の生産と消費、稲作の歴史など概括的な解説から始まり、水田と水稲の特性、千葉県の稲作づくりの現状、稲作づくりの実際など、広く全般に及んだ。

 日本の主食である米飯食は、近世は新田の開発、治水、肥料や品種の改良を積み重ね増産に励み、近代においては科学的品種改良、科学的肥料、合成農薬の導入などで飛躍的に米の生産が増加した結果、1940年以降、国民に広く普及した。1967年(昭和42年)には米自給率100%を達成し、国民は白いご飯を食べられるようになったが、一方で食の欧米化が進み、米を食べる人は減っていき、1971年には米の生産調整せざるを得なくなっている。1965年には75%あった食物の自給率は、2005年には40%に減少し、現在大きな問題となっている。食物の自給率でいえば、世界の三大主要作物、米、小麦、とうもろこしは、米を除き貿易量の多い作物となっているそうで、貿易量が少ないのが米の特色であるが、麦やとうもろこしについては他国に頼っており、これが自給率を低下させている。

 弥生時代以来、稲の特性を活かし、寒さに強いジャポニカ米を水田で作り続けてきた。水田には勝れた生産機能がある。連作が可能であり、有機物の分解を遅くし、雑草が繁茂するのを防止し、空中の窒素を取り込んでくれる。この水田を大事に管理してきた。3000年間、稲を作り続けてきた日本人にとって、瑞穂の国と形容されるように、水田のある風景は日本の原風景である。
 米づくりの場であった水田は、今日では、その多面的な機能が注目されている。
すなわち、
・洪水の防止
・土壌の崩壊や土壌浸食の防止
・水資源を涵養する
・生物多様性の保全
・良好な景観を形成

 最後に、稲作の生産調整、生産放棄地をどうするかについて、農業の専門家は、新たな水田稲作のあり方として水田のフル活用が必要であると指摘された。水田の6割を主食用のものとして、4割は自給率が低い麦・大豆や飼料作物づくり用に転作する。特に飼料米づくりが奨励されるとのことであった。

食味試験の体験
 食味試験を体験したが、食味を評価するのは大変難しい。総合、外観、香り、味を尺度に評価を試みた。その結果は、わずかにコシヒカリの方が総合で上回ったが、食べてみた印象では、コシヒカリも千葉県産もほとんど区別つかなかった。

昼食時のくつろいだひと時

第23回講座 谷津田(水田)と稲の生育状況視察
 午後、最初に立ち寄ったのが、谷当ライスセンター。刈り取った籾をここに集め、乾燥、もみすり、選別、出荷を共同で行う作業場だそうで、当町の農家7人が出資して造られた施設である。ここには耕運機、田植え機、刈取り機と稲作に使用する全ての機械が置いてあり、米づくりから出荷まで、草取りを除いて完全に機械化されていた。

ライスセンターにて

 千万円単位で投資して、耕作、田植えや刈取り機を購入し、雑穀し、選別し、商品化する共同の機械や施設を導入しても、現在の米の単価で黒字化するのは容易ではないと、共同投資者の金親さんやパートナーさんは異口同音に嘆いておられた! この広い農地を人力でやるのはもはや出来ないことであろう。米づくり農家の苦労が思いやられる。

 ライスセンターを後に谷津田への道を歩く。強い日差しも雑木林の緑陰のおかげで苦にならない。中干し期に入り、水を抜かれた田が目立つ。稲の生育に合わせて水の管理が行われているとのことで、齋藤講師が田の稲の主茎から生育状況を調べられる。一面に広がる水田は平に見えるが、水の流れを確保するためそれぞれの水田にはわずかに高低差がある。水は隣の低い田、更に低い田へと流れ、最後に放水路に流れ落ちている。水の管理に大変な苦労を重ねてこられたことが判る。稲の緑の絨毯が谷津の奥までずっと続いていた。最奥にだけ、今年は間に合わなかったという耕作放棄地が雑草に覆われて残っていた。緑の水田と水辺に生えるガマやセイタカアワダチソウなどの荒地の景観は、NPOの奮闘を物語っていた。
 齋藤講師は、教室に戻って稲作入門を締めくくるに当り、米は日本人の生活と切り離すことができない存在であり、どんなアプローチでもよいから何時も米に対して関心をもっておいてもらいたいとの言葉で締められた。

左の写真は放棄されたままの田圃、右の写真はNPO谷当里山計画が取り組んで蘇った谷津田。雑草の生茂る地と稲原の違いがよく判る! 元の田に戻すには、葛の蔓を取り除く作業から始まったとか、側道に膨大な量の雑草が積まれていた。

 NPO里山計画から入会の呼びかけがあり、数名の人が興味と関心を抱かれたようだ。講座終了後、事務局より7月27日の大房岬自然公園のボランティア活動について追加情報の提供があった。10数人が参加する予定との報告があった。

次回は、9月6日(木) 会場 塚本ビル
第24回講座 講座名 花き入門 講師 金子黎次氏(NPO法人ちば農業支援ネットワーク理事)
第25回講座 講座名 土壌・肥料入門 講師 坂本昌夫氏(NPO法人ちば農業支援ネットワーク事務局長)

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