第20・21回講座「里山の活用論」

講師 金親博榮
開催場所 谷当工房
開催日時 2012年7月12日

テーマは、「里山の活用論」
千葉市郊外(若葉区)の谷当町で座学とフィールド視察

講師 金親博榮氏(NPO法人 ちば里山センター理事長)
日時 7月12日(木)10:15~15:00 
場所 千葉市若葉区谷当町 谷当工房
内容 谷当町で手掛けている身近な里山の保全や事業を例に、自らの体験を通して知った里山活動の思いを語り、歩きながら周辺の市民農園や林を案内する。

金親博榮講師ガレージを利用した教室にて

 第20回・21回講座は、里山再生に取り組む金親博榮講師による講義。本日の教室は金親氏の自宅ガレージにて。カーシェアなどの方法で田園風景が広がる若葉区谷当町に集合した受講生は、午前中は、里山活用についての講義に耳を傾け、午後からは谷当町周辺のフィールドを案内してもらい、里山の現状や里山の活用現場を見聞した。

第20回講座 素晴らしい自然を育む、ちばの里山活動(午前)
金親講師はいろいろな顔をもった人だ。農林業従事者であり、農林資源を活かしたビジネスにも挑戦し、一方で、市民の里山活動リーダーとして活躍する市民活動家でもある。NPOちば里山センター理事長、千葉市森林組合長、里山シンポジウム実行委員会代表、千葉県青少年協会理事、NPO千葉自然学校理事などと、里山に関係する多様な場で活躍しておられる。こうした多彩な経験と実践に裏付けられた里山活動が今日のテーマである。冒頭に、里山計画で自身がメンバーでもあるNPOバランス21の代表者から話があり、講義は始まった。

里山の保全と活用に向けた金親氏の歩み
里山を活用するための活動には、里山で行われている子供達の環境学習の場づくり、森林の保全・育成、自然体験、交流イベントなど身近な里山で行われているものや、千葉県レベルでは、「千葉県里山条例」に基づく、里山活動協定認定、法人の森、森林整備によるCO2吸収量認定等、制度として行われているものなどさまざまな活動があり、いろいろな係わり方や参加の仕方がある。その里山活動の多くに携わる金親氏は、略歴を見ると、生業である農林業との係わりの中で、印旛沼土地改良、農地水環境向上対策、JA千葉みらい、森林組合、印旛沼水環境改善委員会などの役員として、又、谷当での活動やNPOちば里山センター代表など民間で里山活動を行う団体の中心的な存在として、幅広く係わっておられるようだ。

里山の役割、保全の意味やその活用の方法について、スライドを通していろいろな事例が語られた。一つ一つを書き留めることができなかったが、例えば、子供達への自然体験学習の場の提供、企業参加による森林づくりについてなどの話だ。 10年目を迎える、氏が代表を務める里山シンポジウム実行委員会の紹介では、里山をテーマに全体シンポジウムと分科会を毎年開催し地道な活動を続けながら、行政も交えて里山に関する議論を積み重ね、里山の活用に関する貴重な情報と機会を市民に提供してくれている話がさりげなくあった。地域住民の主体的な活動の展開が、今後の課題として重要とのこと。そのため、広い年齢層の参加を促進し、都市住民との交流・連携が必要となるという。土地所有者の理解と協力が重要なポイントであり、この人達の負担を軽減していくことも美しい里山・里地づくりや誇れる地域環境の再生にとって大事なことであると指摘された。

環境活動は余暇活動でもあると位置づける金親氏は、退職後のシニアに対して、やれる人がやれる時に、やれる丈の事をすればよいとし、里山活動は新しい社会の場に着地するソフトランディングの役割を果たすだろうとアドバイスする。更には、労働支援、資・機材支援、運営、マネジメントの支援、活動資金支援などを通して、行政、企業、団体が協働することが重要だと指摘、これまでの知見を活かし、社会人が業務上の専門的な知識や経験を提供する、プロボノと呼ばれるボランティア活動への参加もありうると期待を寄せる。里山センターの活動には老若男女、家族や学生も多く参加しており、気楽に参加してみたらどうかと呼び掛けられた。

小休憩の後、身近な里山の活用例として、自身が主宰する谷当グリーンクラブと谷当工房について紹介があった。谷当グリーンクラブは、お米作り体験の田んぼ部会、野菜づくり体験ができる畑部会、雑木林で遊ぶ森林部会に分かれて活動する仲間の集まりであり、里山寄席までも楽しめるという。一年間を通して通いながら田舎体験が楽しめる都市型のクラブである。自宅の一角に建てられた安全な食品つくり体験ができる谷当工房は、蕎麦打ち、ハム作りソーセージ、味噌、石釜づくりが楽しめる工房だ。こうした田舎を体験できるフィールド提供や施設については、千葉県では草分け的な存在として、里山の活用に取り組んで10数年になる金親氏の歴史が詰まったものである。

“大都市の一団の森や郊外の屋敷林に囲まれた一帯は、豊かさや風格、生命を感じさせるものをもっている。何時見ても、誰もが価値を認める自然や緑の景観、この最たるものが手入れの行き届いた里山である。この豊かといわれてきた日本のみどりが、今、危機的な状況に陥っている”という思いが、20年前に脱サラして家業の農林業に従事することになった金親氏の意識にはあり、これが社会活動として里山再生に取り組む氏の原点となっている。

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昼食時、希望者15名限定のピザづくり体験が用意されていた。生地を平にしてその上にトッピングしたものを焼いて食べた。トッピングの材料であるベーコンなど地産地消の材料で、味もなかなかなもの。

昼食時を利用したピザづくり体験。 シニアでピザ体験するとは思わなかった!

第21回講座 谷当町周辺にある里山の活用現場を視察(午後)
 午後は、笑顔を絶やさず語りかける金親氏の話に耳を傾けながら、谷当町周辺にある里山の活用現場を案内してもらった。手始めに自宅一角にある味噌蔵を見せてもらい、配布された自宅周辺の案内図を手に、谷当グリーンクラブの畑(市民農園)、オートランド、教育の森、キャンプ場、炭焼き場の順に、金親氏が手がけた事業の現場の傍を歩きながら説明を聞いた。

落花生、さといも、とうもろこしなどいろいろな野菜が植えてある市民農園(金親農園)の畑を過ぎ、植林に取り組んだ林に囲まれた道を歩んで行くと、山武杉、30年経過した境界木、テングス病に罹った桜の木々などに足を止め、そのひとつひとつに金親氏のコメントが入る。普段は気づかずに見逃してしまっている自然も、金親氏の目で見たら、それぞれに問題点が山積しており、これが里山の気がかりな現状と見えるようだ。金親里山ドクターの診断を聞いてみると、うなずく事しきりであった。

コナラとクヌギの林が気持ち良いキャンプ場に最後に立ち寄り、ここで行われている活動についても簡単なレクチャーがあった。キャンプ場は留学生の交流の場などにも活用されているという。キャンプ場の隣にある50年ひのきの林は、手入れが行き届いていない雑木林という。光が差し込まず暗い。手入れしてある林とそうでない林の違いがよく判るが、“畑は一週間手入れしないと草茫々となるが、林は2年に1回位手入れするだけでいいのですよ”とつぶやくように語る金親氏に、里山再生の苦労を思った。もう一つどうしても見せたい現場という耕作放棄地を活用した里山の活用例(谷当グリーンクラブ田圃)は、次回案内頂くことになった。

里山再生は継続していくことが大事と金親氏は説くが、それを自身で証明しておられる氏の実践力と持続した活動力には頭が下がる。それだけに迫力がある。氏自身はそんな年配でもないのだが、土地をよく知る古老が話すような含蓄ある内容を笑顔で話してくれた。同行された産経新聞の記者も、驚き、びっくりする体験であったと語られたほど。社会の変化には政治・経済の動きだけでは見えてこないものがあるが、この現場に来てみてここでその一部を見ることができた。講義の終了後の挨拶の言葉である。

左は、緑美しい谷当の田圃の風景、右は農村でよく見かける水汲み上げ機のある小屋。手前の機械は谷当のもので湧水を汲み上げるもので、奥は隣村のもので用水から汲み上げる。田に水を引く汲み上げは機械頼みになっており、大地震などで機械が故障すればその負担は地元が負うことになる。費用負担に地元は耐えられるか、金親氏は近い将来水を巡る問題が起ることを心配する。農村が抱える問題の一端を垣間見た思いだ。


享保(1720年代)の碑もあった。先祖を大切にしてきた谷当の村の村人たち!こんなに成長した境界木

講座終了後、大房岬自然公園のボランティア活動への参加呼びかけが事務局からあった。
次回は、7月19日(木)第22・23回講座
講座名 稲作入門 講師 齋藤幸一氏(NPO法人ちば農業支援ネットワーク調査役)
会場 千葉市若葉区谷当町 谷当工房および周辺の里山一帯

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